日本再生医療学会

患者・市民参画

  「患者市民参画モジュール」では、最新の再生医療研究を紹介するだけでなく、学会の情報発信のあり方や、専門家ではない人々が知りたい情報とは何かを参加者の皆さんと一緒に話し合いをする交流型のイベントや、再生医療ポータル(https://saiseiiryo.jp/)を運営し、皆さんへ再生医療に関する情報を提供するなどの活動を行っています。
 再生医療は、これまで治療法が乏しかった病気や怪我に画期的な改善をもたらす可能性をもつため、世界中でたくさんの研究が行われています。それらは患者さんやご家族をはじめ、社会全体からおおきな期待を寄せられ、そして協力を受けています。
 世界中で国が治療として承認した「再生医療」が登場しています。我が国でも11の製品が「再生医療等製品」として認められています。この場合、それぞれの治療法が安全なのか、しっかり効果があるのか、といったことを確かめる臨床試験(治験)の結果をもとに、国が「治療効果があるかどうか」を審査しています。そして、この治験には患者・市民のみなさんの協力なしには成立しないものなのです。
 病気に苦しむ患者さんや家族は、新しい可能性が生まれることを待ち望んでいるでしょう。研究者の側も、それに応ようと、「市民への情報発信」といえば研究への有用性、科学としての魅力を熱心に語ってきました。しかし、その期待が、患者さんと研究者の間で大きなすれ違いを生むことにもなります。治験では、有効性の前に安全性を確認する段階がありますし、動物で効果が見られた治療法が人間では期待通りの成果が得られないことは数多くあります。だからこそ人間で有効性を確認する治験が必要なのですが、新しい治療法の治験に協力する患者さんが、治療効果に過大な期待を抱いてしまうことが世界中で大きな問題となっています。また、科学的な指標では効果がありと判定されるものだったとしても、患者さんが本当に困っている問題について十分な改善がもたらされない場合もあります。そうしたすれ違いを解決するには、患者さんや社会の皆さんと必要な知識を共有することが必要であり、また治験のあり方についても、患者さんと一緒に考える必要があります。
 また、我が国の医療制度では、公的医療保険を使わない条件で実施される医療もあります。そのような医療の多くは「自由診療」と呼ばれ、医療を提供する側と受ける側の双方が合意した場合に限って、国が審査・承認していない方法や研究段階の薬を使用できます。この場合、国は治療としての安全性や効果を承認していませんから、既存の治療法を上回る効果がある、という保証はありません。
治験への参加も、自由診療をうけることも、最後は患者さん自身やご家族が「受けるかどうか」を判断しなければなりません。そのとき、専門家ではない方々が理解でき、判断に役立つ情報は、どのくらいあるでしょうか。
本モジュールは冒頭に記した活動を通じ、我が国で行われる再生医療の治験の質の向上を目指し、また患者さんが納得して自由診療をうけることができるような社会を実現していきます。

研究開発分担者

八代嘉美

日本再生医療学会 理事
藤田医科大学 教授