日本再生医療学会

ニュース

2011.3.1

  • 声明・ガイドライン等

会員の皆様へのお願い(勧告)

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

会員の皆様のたゆまぬ努力により積み上げられた研究の成果が省庁を動かし、昨年「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以下「ヒト幹指針」という。)が改正されました。改正されたヒト幹指針では新たにES細胞、iPS細胞等の新たなヒト幹細胞が対象となり、幅広いヒト幹細胞の臨床研究の実施が制度上は可能となりました。併せて、薬事承認においても確認申請等の取り扱いが改められ、煩雑な事務手続き等の再生医療の推進の障害についても徐々に取り払われ、再生医療の実現に向けて社会制度が大きく変わりつつあります。

 

更に、来年度からは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が基礎研究、臨床研究、周辺技術等開発、知財戦略等について連携を行い再生医療の早期の実用化を図るために「再生医療実用化ハイウェイ事業」を実施することで、再生医療に係る制度を含む基盤の構築が図られようとしています。

 

一方、国内の医療現場においては、「医師の裁量権」を根拠に、ヒト幹指針の遵守や薬事法に基づく治験等の申請といった安全性の確保等のための正規の手続きを経ず、幹細胞の輸注、投与、移植等の所謂、再生・細胞医療と称する行為が行われている実態があります。また、不適切な幹細胞治療を行う「医療ツーリズム」が存在しており、その結果、種々の医療事故等が発生しています。世界には「tax haven」と呼ばれる租税回避地として利用される国がありますが、日本が他国から幹細胞治療分野において「therapeutic haven」として利用される(既にされつつある)ことが非常に危惧されます。

 

日本再生医療学会は、医療の進歩のために必要なさまざまな挑戦を推進・奨励しています。しかし、ヒト幹細胞を用いた医療は、難治性疾患等の有効な治療法の確立へとつながるものであると同時に、現時点ではまだまだ安全性を含む様々な課題が残されています。そのため、前掲のような科学的根拠が低く安全性を考慮しない所謂、「未承認の再生・細胞医療」が、患者に対する健康被害の発生や、国民の皆さんの幹細胞治療に対する誤った認識を生じさせ、今後の幹細胞治療の推進の障害になる可能性があり、強い憂慮を抱いております。

 

そこで、本会会員各位におかれましては、患者の安全性の確保と早期の再生医療の適正な実用化のために、「ヒト幹指針」をはじめとする各種法令、通知、告示、ガイドライン等を遵守し、未認可の幹細胞を用いた医療行為に関与しないことを求めます。

 

また、本会は行政当局と連携し、

  1. 未だ研究段階である自家細胞・組織等を用いた再生・細胞医療等を、臨床研究から治験、診療報酬評価に至る遅滞なく推進する体制・制度を確立し国民への早期の技術還元の実現を図ること
  2. 前述のような患者の安全性を無視し日本医療の信頼を根幹から揺るがすような所謂、「未承認の再生・細胞医療」に対して医療法、薬事法等の改正等を推進し適切な新しい医療提供体制の構築による患者(国民)の安全性を早急に確保することを強く推進していきます。

本会会員が、再生医療に対する信用を失墜させかねない「未承認の再生・細胞医療」へ主体的に関与されることはないと確信しております。また、再生医療の施行には、厚生労働省の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究指針」あるいは薬事法に基づく治験など法令・ガイドラインに則って行っていただくことを強く要望致します。本文書を持って、会員各位に注意喚起を行うととともに、「未承認の再生・細胞医療」に対して断固容認しない態度を再度認識していただきますようお願いするものであります。

以上

 

2011年3月1日
日本再生医療学会
理事長 岡野光夫