日本再生医療学会

ニュース

2011.1.26

  • 声明・ガイドライン等

日本再生医療学会声明(2011-1)

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現在のわが国における再生医療は、関係者の努力により、昨年の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以下「ヒト幹指針」という。)の改正が行われました。新たにES細胞、iPS細胞等の新たなヒト幹細胞が対象となり、幅広いヒト幹細胞の臨床研究の実施が制度上は可能となりました。併せて、薬事承認においても確認申請等の取り扱いが改められ、煩雑な事務手続き等の再生医療の推進の障害についても徐々にではありますが、取り払われてきています。

 

さらに、来年度からは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が基礎研究、臨床研究、周辺技術等開発、知財戦略等について連携を行い再生医療の早期の実用化を図るために「再生医療実用化ハイウェイ事業」を実施することで、再生医療に係る制度を含む基盤の構築が図られようとしています。

 

一方、国内の医療現場においては、「医師の裁量権」を根拠に、ヒト幹指針の遵守や薬事法に基づく治験等の申請といった安全性の確保等のための正規の手続きを経ず、幹細胞の輸注、投与、移植等の所謂、再生・細胞医療と称する行為が行われている実態があります。また、不適切な幹細胞治療が行われ、その結果、種々の医療事故等が発生しています。世界には「tax haven」と呼ばれる租税回避地として利用される国がありますが、日本が他国から幹細胞治療分野において「therapeutic haven」として利用される(既にされつつある)ことが非常に危惧されます。

 

日本再生医療学会は、医療の進歩のために必要な新たな挑戦を進めて来ており、これを否定するものでは全くありませんが、ヒト幹細胞を用いた医療は、難治性疾患等の有効な治療法の期待が大きいものと同時にまだまだ安全性を含む色々な課題を持っていることから、科学的根拠が低く安全性を考慮しない所謂、「未承認の再生・細胞医療」に対しては、患者に対する健康被害の発生、今後の幹細胞治療の推進の障害、国民の皆さんの幹細胞治療に対する誤った認識を持たせてしまう等に対して強い憂慮を抱いております。このような観点から、本会会員に対しては、患者の安全性の確保と早期の再生医療の適正な実用化のために各種法令、通知、告示、ガイドライン等を遵守し、未認可の幹細胞を用いた医療行為に関与しないことを求めます。

 

また、患者・患者家族の皆さんにおかれましては、根拠なく所謂、「未承認の再生・細胞医療」を謳う診療行為を安易に受診せず、治療を行う医療機関が当該治療に関して公的機関から承認されているか、もしくは臨床研究や治験の承認等を受けていることを確認した上で判断されることを推奨します。幹細胞治療について関心を持たれた場合は、国際幹細胞学会(ISSCR(※))が作成した「幹細胞治療について患者ハンドブック」の御一読をお願いしたいと思います。

http://www.isscr.org/home/publications/patient-handbook

最後に、行政においては、未だ研究段階である自家細胞・組織等を用いた再生・細胞医療等に対して、臨床研究から治験、診療報酬評価に至る遅滞ない推進を可能とする体制・制度を確立し国民への早期の技術還元の実現を図ることを要望します。また、前述のような患者の安全性を無視し日本医療の信頼を根幹から揺るがすような所謂、「未承認の再生・細胞医療」に対して医療法、薬事法等の改正等を推進し適切な新しい医療提供体制の構築による患者(国民)の安全性を早急に確保することを強く切望します。

2011年1月26日
日本再生医療学会
理事長 岡野光夫
生命倫理委員会委員長 岡野栄之

 

(※)ISSCRは、幹細胞研究を通じて安全かつ有効な再生医療を実現することを目指し、幹細胞研究に係る情報交換の促進を行う国際組織です。日本再生医療学会もISSCRと積極的に連携し安全かつ有効な再生医療を実現することを目指しています。

 

以上