日本再生医療学会

ニュース

2010.3.19

  • 声明・ガイドライン等

再生医療にかかる規制改革の要望と本会の取組

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

幹細胞等を用いて必要な組織を再生する「再生医療」技術が臨床応用の段階に入っています。新しい有効な医療技術を広く国民の元へ迅速に届けることは患者のためにも、医療産業・医療経済など「国益」の点でも重要です。幹細胞を利用した新しい治療を安全な形で国民の元へ届けるには種々の規制が必要であることは明らかです。しかし多くの場合、これらの規制は研究開発や産業化を必ずしもアシストするものではなく、ゴールに向かって合理的、効率的、効果的に進むための方策とはなっていないのが現状です。一例は薬事承認の獲得ですが、肝心の審査手法は、残念ながら未だ一般医薬品の審査の延長に過ぎず、これが過度の審査データ要求や審査期間の長期化を招き、結果として先端医療技術の製品化が海外各国と比べて大きく遅延する一つの要因となっています。またES細胞研究において示されたように、科学の進歩に基づく倫理観の変化に対応して規制を緩和しなかったため、わが国のヒトES細胞研究は遅れてしまい、知財や今後の臨床応用に大きく出遅れてしまいました。

技術立国を標榜する我が国において、先端医療技術開発研究の成果を国民に還元するためには、産官学の関係者が同じピッチに立ち、共通のゴールに向かうプレーヤーであるべきと考えます。規制一辺倒ではない、日本発の先端医療技術を育成する視点を持った規制緩和と審査体制の充実を切に求めつつ、本会として様々な取り組みを行ってゆく所存です。

 

2010年3月19日
日本再生医療学会
理事長 中内啓光

要望事項

  1. ヒトES細胞ならびに死亡胎児由来幹細胞の利用について
    既に樹立されたヒトES細胞株の使用研究については規制緩和がなされましたが、樹立研究に関しては依然として厳しい規制が続けられている。その結果、現状では複数年にわたる長期間の準備と努力を費やしても、極めて少数の凍結余剰胚の提供を得ることしかできず、日本全体でも僅か5株のES細胞しか樹立できていない。このような状況下、文部科学省指針に従って作成された細胞株についても、ヒト胚提供時のインフォームドコンセントの説明において臨床利用の可能性が示されていて、ウイルス等の感染の検査結果により汚染が認められないなどの技術的要件を満たすことができれば、臨床研究や医薬品開発等への活用の門戸を開くことを要望する。尚、ES細胞株においては同じ遺伝形質を持つ連結される特定個人は存在しないことから、連結不可能匿名化の基に樹立されたES細胞株であっても臨床応用可能性を除外する必要性は無い。また、欧米を中心に死亡胎児由来幹細胞を用いた臨床研究が目覚しく進展している。これらの幹細胞はES細胞、iPS細胞に比べて安全性が高いことから、我が国においても死亡胎児由来幹細胞の利用を臨床研究指針に取り込むことを要望する。
  2. 再生医療の適用法令
    医薬品・医療機器に対する従来の法制度を適用すること自体に問題があり、実用化(オーソライズ)に長期間を要する中、重篤な患者には間に合わず不幸な転帰を迎える例も多い。特に欧米審査当局が再生医療製品の製造や臨床試験に関する新たな規準・制度を構築し開発側との共同体制を強化する中で、国際的な審査連携協議への参加が滞り、更には優れた再生医療の治験=「知」が海外に流出しかねない現状にある。『現行の法制度にとらわれることなく、臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする最適な制度的枠組みについて、産学官の緊密な連携のもとに検討する場を設け、結論を得る』ことが重要である。国際協調と我が国の国際競争力確保の観点も視野に入れ、臓器移植法との整合性を鑑み、引き続き細胞治療・再生医療の法制度・法整備のあり方を検討いただくよう要望する。
  3. 臨床試験のあり方について
    臨床試験を開始するにあたっては、対象疾患の重篤度を勘案し、安全性を前提に、有効性の画一的評価を避けて一定の効果が認められることを要件とすべきである。また、臨床試験の迅速な推進のために、保険外併用療法や高度医療評価制度の拡充と促進、臨床試験ベッドの確保や研究費の臨床研究費への流用化、補償制度の構築等の対策が重要と思われる。特に、特定機能病院やDPC(※1)導入医療機関においては臨床研究における保険外併用療法を自律的に実施が可能となるように要望する。
  4. 審査体制の更なる強化・充実について
    PMDA(※2)における先端医療技術に対する「技術育成」の視点を持った審査手法および審査体制の確立、細胞治療・再生医療製品についての承認システムの関連法令・通知、審査運用の見直し(例えば日本型HUD※3制度等の導入)、及びコンパッショネートユース(※4)制度の正規導入による治験と併行した重篤患者の治療制度の構築等の検討を要望する。特にPMDAにおける各種試験方法の運用検討にあたっては学会等との積極的な連携と協議を要望する。
    また、より迅速な審査が行われるよう、PMDAの再生医療分野の知識強化、特に生物系審査の強化等の人員の更なる確保も含めて審査体制の質量両面での強化とともに、積極的な産官学の人事交流や教育事業、専門協議にかかるプール委員への人材の育成を学会と連携して推進することを要望する。

用語解説

  1. 従来の診療行為ごとに計算する「出来高払い」方式とは異なり、入院患者の病気をもとに手術等の診療行為の有無に応じて厚生労働省が定めた方式によって「定額払い」の会計方式
  2. 医薬品医療機器総合機構
  3. オーファン向け治験承認制度の1形態
  4. 代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度

学会としての取組

  1. 重症臓器不全、重篤な遺伝性疾患、難治性疾患(いわゆる難病)等の重篤な疾患群と、直接生命に影響しない領域の疾患等では安全性有効性の希求水準が大きく異なる。このような事実を踏まえ、学会として領域・疾患ごとの安全性・有効性に求められる水準を提言していく。
  2. 積極的な産官学の人事交流や教育事業、専門協議にかかるプール委員への人材の育成等、臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする審査の迅速化にむけた支援を積極的に行う。
  3. 自家細胞臨床研究に当たって、医療機関同士の培養細胞の提供を可能にしていく場合、安全確保やQuality Controlのために培養施設や培養技術者の認定に関して当学会が積極的に役割を担い、将来、企業の利用も可能にしていく。
  4. 再生医療のアウトカム評価を積極的に行うため、各領域の治療効果に関するデーターベースの構築し、再生医療のヘルス・テクノロジーアセスメント(医療の効率性評価体制)を確立することを具体的に検討する。

以上