日本再生医療学会

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2019.3.26

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日本再生医療学会声明(2019)

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日本再生医療学会声明(2019)

―患者主体の再生医療を産官学民で―

 

日本再生医療学会は、研究活動の中で再生医療の可能性を深く科学的に追求するとともに、その実現のため、関係各省庁、産業界と一体となり、再生医療の発展を支える基盤整備に努めてきました。また、国民との対話を通じ再生医療の理解を進めると同時に国民が再生医療に何を求めるのかを追求してきました。産官学民が一体となって作ってきた再生医療関連法は、再生医療の特性を踏まえその健全な発展を促すものとして世界でも注目を集めているところであります。すでに施行から5年目を迎え、その精神は医療関係者のみならず産業界にも浸透してきていることを実感しております。

再生医療は、従来の医薬品医療とは異なった新たな医療分野として発展しようとしています。細胞が主体ではなく、患者が主体であること、そのことは再生医療関連法の設立当初からの精神でありました。それらの法は、産業化においても、細胞を売るための産業ではなく、医療を提供するための産業であることを謳っています。再生医療の安全性や有効性の評価が客観的に行われることは重要であり、そのデータの蓄積に基づいた科学の構築が再生医療の発展にとって必須のものであることは明らかです。とはいえ、再生医療が患者主体の治療であり、また患者毎の最適化をめざす治療であることを考えると、従来の大量生産により製造された医薬品における評価の手法では必ずしも正当に評価できない部分があることを理解しなければならないと感じています。日本では、より迅速に最新の医療を患者に届けるため、世界ではじめて早期承認制度をとりいれました。その制度が有効に活用され、法の精神が実現されることを支持するため、日本再生医療学会では、承認後のリアルワールドのデータを集約するシステムを構築しました。

一方、ドネーションにより提供された組織・細胞を無駄なく有効活用し、より多くの患者に届け、さらに再生医療のコストダウンを図るため、国内での細胞の供給システムを構築することもまた急務と考えます。

日本の再生医療は、法の下にリスクを未然に回避することにより、確実に安全な再生医療を実現できる事を実証してきました。日本再生医療学会は、これらの法の精神を追求し日本中に浸透させるため、他の機関や学会との強固なネットワークや国民との対話の場としてのナショナルコンソーシアムを構築し、多様化する再生医療の中での普遍的真理の追求と、確かなデータに基づいた「もの作り」「こと作り」の標準化と、その手段としての人材育成の普及、データシステムの構築といったミッションをオールジャパン体制で一つ一つ確実に達成してきましたが、この活動をさらに世界に発信していくためには、決して一時的な盛り上がりで終わってはならず、産官学民一体での地道な努力を継続していくことが必要です。

日本再生医療学会は、患者主体の再生医療という法の精神のもと、産官学民一体となって再生医療の実現と世界への発信に努めてまいります。

 

 

 

日本再生医療学会 活動目標

 

本会はこれまでと同様、患者主体の再生医療という法の精神を実現するため、また、再生医療が安全で有効な医療として、医療における確固たる地位を獲得するため、以下の活動を通して再生医療の普遍化と患者主体の再生医療の実現への強い意志のもとに、産官学民一体での活動体制を構築し、再生医療の「研究」および「産業化」の両輪を推進し、これを世界にむけて発信する。

 

(1)科学に根ざした再生医療の可能性の追求

研究活動を通して再生医療の新たな可能性を追求することは、「学」としての日本再生医療学会の使命である。科学的真理の追究と医療への応用にむけた研究の奨励と情報の共有・発信に努める。

 

(2)法の遵守と、再生医療に対する技術的支援体制の構築

再生医療等関連法令の遵守のため、よりいっそうの教育の徹底を図るとともに、現状の再生医療の実態調査を行い、問題点を明らかにしつつ法規制のあり方について行政への提言を行う。

 

(3)再生医療に求められる評価の確立

再生医療の特異性を踏まえ、すべての医療を総和として評価するのではなく、共通の評価に対する考え方、すなわちMinimum Consensus Package(MCP)を確立するとともに、確かなデータの蓄積にもとづいて個々の再生医療に適した評価システムを採用することでより安全で有効な患者主体の再生医療を実現することをめざす。

 

(4)規制科学の確立と人材の教育・育成体制の構築

科学的合理性・妥当性に基づいた規制科学を確立し、再生医療のあるべき姿を示すとともに、教科書、E-learningのシステムを活用し、その普及に努める。

人材育成システムをさらに発展させ、それぞれの場、それぞれの時に応じた人材のきめ細かな育成を目指す。

 

(5)再生医療臨床研究の情報集積と発信

本会では、ナショナルコンソーシアム事業を通じて標準的な評価項目を用いた共通のプラットフォームと個々の疾患や医療に対応できる評価システムを同時に兼ね備えたデータベース(NRMD)を構築した。このNRMDを有効活用し、再生医療に関する科学的・医学的情報を集積するとともに、再生医療等研究・製造販売承認後調査のリアルワールドの客観的データを国内外に発信し、「知の結集」と「知の拡大」をめざす。

 

(6)再生医療における原料の安定供給に向けた体制の構築

日本の再生医療は臨床研究と治験を通じて多くの可能性が示されてきたが、原料となる細胞の供給システムがなく、その多くは輸入に頼っているのが現状で、そのことは産業化における大きな障壁となっている。医療現場の残余試料やドネーションにより豊富に存在しうる細胞リソースを有効に活用するため、製造・保管システムを整備する上での現状の問題点を抽出し、細胞の安定製造・安定供給のための体制整備・構築を行う。

 

(7)社会との知の共有と対話

リスクコミニケーションの活動などを通して、科学的に正確で理解しやすい情報を積極的に社会に発信するとともに、患者・社会との対話の機会を設定し、社会と協調した再生医療の推進と実装を目指す。

 

(8)再生医療を受ける者の権利の尊重

再生医療を受けようとするすべての者の権利と利益を守り、再生医療等により最大の恩恵を受けることができるよう補償制度や患者相談窓口の設置などの体制を整備・強化する。

 

(9)オールジャパンでの再生医療の推進

わが国の再生医療の質を向上させ、さらに国際的牽引力をもって世界に貢献するよう、他の学協会や施設・行政・産業界に働きかけ、日本全体として再生医療の推進のための協力連携体制を強化する。

 

(10)認定再生医療等委員会の質の向上

関係各省庁との連携のもと、認定再生医療等委員会の審議や事務局活動内容の標準化および教育を通じて、再生医療等が適正に評価される体制を構築する。

認定再生医療等委員会の問題点の抽出とガイドラインの策定を進め、さらに法令改正への提言を見据えた活動を推進する。

 

(11) 世界と共に歩む再生医療

日本の再生医療は、その技術、研究成果、制度整備において世界の注目を集めているが、製品化・産業化では必ずしも世界をリードしているわけではない。日本再生医療学会は、これまで海外の学会や医療機関、企業などとの連携を進め、情報交換を行ってきたが、さらに積極的に日本の法制度・技術・医療などの情報を世界に発信し、世界と共に歩むことをめざす。また、アジアにおける再生医療の核としてその責務を果たす。

 

以上

日本再生医療学会