日本再生医療学会

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2019.3.6

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日本の再生医療等製品承認プロセスに関する日本再生医療学会の考え方

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先般、英国の科学雑誌Natureに、我が国の再生医療等製品に対する迅速承認制度を批判する記事が掲載されました。日本再生医療学会(JSRM)としては、記事内容に同意できる点は多いものの、承認された治療薬がない疾患の患者に一日でも早く治療を届けるためにはスピードに欠けており、日本の制度のような新しいアプローチも必要だと考えています。

 

Nature誌では、再生医療等製品の治験に、無作為化比較臨床試験(RCT)*1の必要性を訴えていましたが、JSRMでは必ずしもすべての製品でRCTが必須とは考えていません。患者数が少ない疾患では、投与群と非投与群を比較し、統計的に有効性を確認するための治験参加者数を揃えることが難しく、莫大な時間を必要としてしまうためです。しかし、RCTに依らない手法によるデータに基づいた期限・条件付き製造販売承認が許容されるには、論文の公開などにより治験デザインとデータの解釈の妥当性に関して科学的議論を経た上で、有効性が合理的に推定できることが重要です。すなわち、議論のために必要な可能な限りの情報開示が必要であることについては、Nature誌と同意見です。

 

また、有効性・安全性を調査する方法について、承認申請時に明らかにする必要性についても、意見を同じくする点です。JSRMでは、学会主導による全国的なデータベースとして、厚生労働省、日本医療研究開発機構、医薬品医療機器総合機構の協力のもと、再生医療等製品使用データ登録システム(NRMD/PMS)の構築・運用を開始しています。本データベースは公的機関の定める水準を満たしたデータ項目を持ち、市販後調査で得られたデータを蓄積することで、透明性の高いデータ評価を行うことができます。このような公共性の高いデータベースを利用し、評価を行うことが推奨されるべきです。

 

上記データ登録システムにデータを集約することにより、市販後調査のデータや、過去の臨床試験や研究でのデータの蓄積を行うことができるため、既存試験の情報を対照群としてより効率的に有効性を検証することができるようになります*2。すでに、がん領域などでは既存データとの比較による有効性の確認が行われており、再生医療等製品に関してもこうした手法を用いて、よりRCTに近いエビデンスレベルの臨床試験が可能となると期待できます。

 

Nature誌が指摘する通り、我が国の再生医療等製品の承認制度には従来の医薬品の承認手続きとは大きく異なる部分があります。しかし、これまでの治療手段とは異なった特性を持つ再生医療等製品の承認制度には、再生医療等製品の特性を鑑みた新しいアプローチも必要であるとJSRMは考えます。JSRMはこれからも、学術的な立場から、有効性・安全性のハードルを下げることなく高い質の再生医療を提供するための、科学的合理性のある新しい方法論の創出と、政策の提言を続けて参ります。

 

以上

日本再生医療学会

 

*1  予防・治療の効果を科学的に評価するための介入研究。対象となる疾患の患者を、投与群と非投与群とに無作為に割り付け、効果を比較するもの。Randomized Controlled Trialという英語を略したRCTとも呼ばれる。

*2  ヒストリカルコントロールと呼ばれるもの