日本再生医療学会

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2018.12.14

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受精卵へのゲノム編集が行われたとされる新生児の報告に関する日本再生医療学会の姿勢について

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香港で開催された第二回ヒトゲノム編集国際サミットにおいて、中国の研究者が受精卵にゲノム編集を行い、双子の女児を誕生させたことを発表しました。現在のところ、実際に実施されたかについて確認することはできませんが、事実であれば断固容認できない行為であり、本会としては極めて遺憾であると考えています。

 

まず、今回ゲノム編集が実施されたのは、HIVウイルス保有者の精子と非保有者の卵子からなる受精卵でした。しかし、こうしたカップルが出産を希望する場合、すでに母子ともにHIVへの感染の恐れがない安全な人工授精技術が確立されており、ゲノム編集を実施する必要性は皆無でした。

 

また、現時点では、ゲノム編集技術をヒトの受精卵に適応することについては、十分な科学的な知見が蓄積されているとは言えず、産児への重大な健康被害が懸念されました。こうした点から、今回の行為が科学的および倫理的な妥当性をいずれも欠いており、実施すべきでなかったことは明らかです。

 

ゲノム編集は、すでに生物学研究の広範な領域で活用され、受精卵に対する適用についても、遺伝性疾患の治療法へとつながる重要な研究です。再生医療領域では、臓器・組織の再建や機能の回復を目指すために幹細胞や体細胞に対して遺伝子改変を行う場合もあり、ゲノム編集技術を応用した手法も研究されています。しかし、本会では学会員に対する倫理教育などを行い、人に応用するにあたって、より安全で必要性の高いところから科学的データを集め、議論を深めることを第一義に考えており、今回のような行為は断固容認できないものです。

 

全く新しい医療技術が実用化される場合、社会の枠組みやさまざまな価値観に影響を与える可能性は少なからず存在します。その技術が患者にとって、そして社会にとって必用なのかどうかについては、社会と情報を共有し、期待されるベネフィットと予想されるリスクを比較し、合意を形成する過程を欠かすことはできません。今回の行為は、社会との対話の基盤である、先端医療研究の現場に対する信頼を毀損したことは間違いなく、重ねて遺憾を表明するものです。

 

以上

 

日本再生医療学会