日本再生医療学会

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2018.3.20

  • 声明・ガイドライン等

日本再生医療学会声明(2018)

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―健全な再生医療の社会実装の推進に向けたオールジャパンでの取組―

 

再生医療は、疾患の特異性を越えて様々な可能性を秘めており、これまでに治療法のない難治性疾患に苦しむ患者さんにも明るい希望をもたらしています。日本再生医療学会は、研究活動の推進と同時に、その可能性を広く実現するため、関係各省庁、産業界、他の学会などとともに再生医療の迅速で安全な発展を支える基盤構築に努めてきました。日本が独自に制定した再生医療等に関する諸制度は、世界の注目を集めるとともに、世界に向けて多くのメッセージを送っています。

OSAKA宣言2016において、日本再生医療学会は、「普遍的治療」としての再生医療の実現を目指すことを宣言し、また、2017年の声明では、「オールジャパンでの再生医療の推進」をかかげ、より多くの患者さんが再生医療の恩恵に浴することができるよう、日本再生医療学会単独ではなく、多くの機関・他の学協会との強固なネットワークを構築し、日本全体として再生医療の支援、教育、データの集積等の活動を推進していくことを誓いました。その活動は、再生医療等の臨床研究から再生医療等製品の製造販売承認後までを一貫してカバーするプラットフォームの構築を目指すものであり、National Regenerative Medicine Database(NRMD)と呼ばれる全国規模のデータベースの構築、教育制度の整備、補償制度の確立など具体的な成果として実を結んでいます。

一方、昨年は違法な再生医療の実施に対して逮捕者が出るという衝撃的な事件を経験した年でもありました。再生医療の混沌とした蠢きの中に、一定の秩序と発展の方向性を示すことができたことは法の整備がもたらした成果とも言えます。しかし、患者さんの安全や医療による成果を顧みず、ただ治療の提供者自らの利益のみを追求する再生医療が存在しうることが改めて明らかになりました。日本再生医療学会は、違法な再生医療に対しては毅然とした態度で臨み、再生医療が基礎研究および臨床において蓄積される科学的エビデンスに基づいて正しく発展するよう、また、再生医療を受ける患者さんの立場に立った健全なあり方を考えることを日本再生医療学会の大きな使命として努力を続けたいと考えます。

日本再生医療学会は、再生医療の多様な可能性の中にその進むべき方向性を示しつつ、日本の再生医療が世界の範となるべくオールジャパンで健全な再生医療の社会実装を推進させるための努力を続ける決意をここに表明します。

日本再生医療学会 活動目標

本会はこれまでと同様、より多くの患者が再生医療の恩恵に浴するため、また、再生医療が安全で有効な医療として、医療における確固たる地位を獲得するため、以下の活動を通して再生医療の普遍化への強い意志のもとに、日本全体としての活動体制を構築し、再生医療の「研究」および「産業化」の両輪を推進する。

 

  1. 法の遵守と、再生医療に対する技術的支援体制の構築
    再生医療等関連法令の遵守のため、よりいっそうの教育の徹底を図るとともに、現状の再生医療の実態調査を行い、問題点を明らかにしつつ逐次解決する努力を惜しまない。また、再生医療実践のための安全性基準策定や細胞加工受託制度の構築など技術的支援と情報提供を他の学協会との協力の下で行い、再生医療の標準化と法の下に安全で適正に行われることを目指す。
  2. 透明性の高い産学共同研究の推進
    再生医療の産業化を推進する上で、研究資金を透明化するための利益相反マネジメントは非常に重要である。その観点から臨床研究の法整備も進められているところである。しかし、利益相反の考え方は、「公的資金が適正にかつ有効に利用されていることへの説明責任」と「外部資金の適正利用の考え方」を示すものであり、外部資金の利用を阻止するものではない。また、研究活動においては、公的資金と外部資金が機能的に有効に利用されることを目指す必要があり、利益相反マネジメントは研究の方向性をいたずらに乖離させることを目的とするものではない。日本再生医療学会では、利益相反委員会を設立し、利益相反のあり方についてのベンチマーキングについて議論を重ねてきた。再生医療研究の利益相反に関する指針を作成し、透明性の確保の上での産学共同研究を推進し、産学連携による再生医療の社会実装を加速させることあらためて確認する。
  3. 規制科学の確立と人材の教育・育成体制の構築
    科学的合理性・妥当性に基づいた規制科学を確立し、再生医療のあるべき姿を示すとともに、世界の再生医療の途切れなき発展に貢献しうる人材を育成する。細胞の採取から加工・移植までの細胞の取扱いに関する考え方を産業界との対話と議論を通して確立し、その運用を浸透させるよう教育・啓蒙活動を行う。
  4. 再生医療臨床研究の情報集積と発信
    本会では、ナショナルコンソーシアム事業を通じて標準的な評価項目を用いた共通のプラットフォームでの再生医療等研究・製造販売承認後調査のためのデータベース(NRMD)を構築した。このNRMDを有効活用し、再生医療に関する科学的・医学的情報を集積するとともに、国内外に発信し、「知の結集」と「知の拡大」を目指す。
  5. 社会との知の共有と対話
    科学的に正確で理解しやすい情報を積極的に社会に発信するとともに、患者・社会との対話の機会を設定し、社会と協調した再生医療の推進と実装を目指す。
  6. 再生医療を受ける者の権利の尊重
    再生医療を受けようとするすべての者の権利と利益を守り、再生医療等により最大の恩恵を受けることができるよう体制を整備・強化する。
  7. オールジャパンでの再生医療の推進
    わが国の再生医療の質を向上させ、さらに国際的牽引力をもって世界に貢献するよう、他の学協会や施設・行政・産業界に働きかけ、日本全体として再生医療等推進のための協力連携体制を強化する。
  8. 認定再生医療等委員会の質の向上
    関係各省庁との連携のもと、認定再生医療等委員会の審議や事務局活動内容の標準化および教育を通じて、再生医療等が適正に評価される体制を構築する。認定再生医療等委員会の質の不均一が懸念される中、昨年、本課題は本会の新たなミッションとして掲げ、認定再生医療等委員会の実態調査と認定再生医療等委員会を対象とした教育研修会の開催を行った。今後、認定再生医療等委員会の問題点の抽出とガイドラインの策定を進め、さらに法令改正への提言をも視野に入れた活動を推進する。
  9. 世界と共に歩む再生医療
    日本の再生医療は、その技術、研究成果、制度整備において世界の注目を集めているが、製品化・産業化では必ずしも世界をリードしているわけではない。日本再生医療学会は、これまで海外の学会や医療機関、企業などとの連携を進め、情報交換を行ってきたが、さらに積極的に世界に働きかけ、技術と資金の鬱滞を脱却し世界と共に歩むことをめざす。また、アジアにおける再生医療の核としてその責務を果たす。

 

以上

 

日本再生医療学会