image

ご挨拶

再生医療学会理事長就任にあたって
日本再生医療学会
理事長 岡野光夫
日本再生医療学会理事長 岡野光夫

 20世紀は生理活性のある有機化合物を治療薬として利用する、いわゆる薬剤治療の基礎と臨床の学問体系が確立され、製薬産業が大きく発展する世紀となった。ほぼ80兆円の製薬産業が人類の薬物治療を支え、この医療の効果と安全性は薬事法で規制されることとなった。さらに1980年以降のバイオテクノロジーの目ざましい発展は細胞工学と遺伝子工学によって創出され、ペプチドやタンパク質が大量に合成可能となり、治療薬として利用する15兆円の新産業, バイオ医薬時代を作り出し、今後のさらなる発展が期待されている。しかし、これらの低分子化合物やタンパク質の医薬品のほとんどは対症療法的な適用であり、根本治療を実現する治療薬の実現は21世紀の人類の重大な挑戦課題となっている。

 再生治療の学問体系の確立とその医療応用を実現する取り組みが世界の最大の関心事となっている今日、日本再生医療学会にかけられる期待はきわめて大きい。とくに、細胞や培養組織・臓器で治療するこの新領域の確立は再生医療社会をどのように創出するかという挑戦に他ならない。日本再生医療学会は2001年にスタートされ2008年に日本組織工学会との合併さらに2009年日本再生歯科フォーラムとの合併を行って現在の総合的かつ集約的な再生医療の研究をカバーすることとなった。すなわち、幹細胞、培養組織・臓器で再生治療する新学問領域の創生に向けた体制ができ上った。医学、生物学、工学、薬学の統合的、集学的な取組みが系統的に進められている。この学会の体制を作り上げリーダーシップを発揮されて来た中内啓光前理事長に感謝申し上げたい。本年3月の総会で私が理事長に選出され就任致した。日本再生医療学会を運営するその使命の大きさと責任の重大さを実感している。

 私が重点的に強化したい活動を以下のようにまとめてみたのでこの点を中心に会員の皆様と議論して行きながら学会の新しい活動を進めて行きたいと思っている。

1.再生治療のための細胞ソースの確立
 ES細胞、iPS細胞および体性幹細胞のサイエンスの確立と治療を可能にする細胞を分化制御して増殖させて行く手法を追究する。とくに我が国にはiPS細胞の発明者の山中伸弥教授が研究拠点を形成しており、この拠点と連携しながら世界に先駆けた再生治療を実現する細胞ソースの確立を目指すユニークな活動が展開されることが期待できる。強力な基礎と応用の連携を構築して行く活動を進める。
2.ティッシュエンジニアリング治療のブレークスルーと幅広い臨床応用を促進する前臨床及び探索的臨床研究の強化
 細胞を効果的に増殖させ、これを培養組織化してその機能を損なうことなく生体に効率よく移植する治療法の推進と適用拡大を医学、生物学、工学および薬学の連携を通して推進させる。皮膚、角膜、骨、軟骨などの一般的治療の普及を強力に進めると同時に網膜、歯根膜、血管、膀胱、尿道、食道、気管、心筋、肺、肝臓、膵臓、腎臓など組織・臓器の新しい再生治療を次々に実現させる研究を進めて行く。産官学の研究推進と有効な支援体制を同時に構築して行く。
3.臨床研究・治験の推進体制の整備
 世界で300件以上の再生治療の治験が進行する中で日本では多少の臨床研究はあるものの治験に至ってはほとんど開始できていない現状は、わが国の再生医療の未来をきわめて暗いものにしている。これはアカデミア、行政、産業のそれぞれが20世紀の古い体制を変えることができていないことによると思われる。21世紀の新しい仕組みを必要とされる再生治療を既存の古い仕組みのままで推進させようとするため、その実行が極めて難しくなっている。このことを具体的に解決すべく本学会が中心となって優れた研究を具体的に臨床研究につながる再生治療を世界に発信するための課題の解決を強力に進める。政策、体制整備、治験のための確認申請制度、総合的なレギュラトリーサイエンスに基づく規制の多面的な見直しを学会レベルで議論し、具体的な対策を提言、実行して行く。
4.再生治療社会の確立を目指して
 再生治療を従来の学問上の延長線で見るのみならず横断的・集学的な視点から体系化し、新しい時代の医師・研究者教育を考え、基礎および臨床研究のみならず薬事法による規制の見直しを通して、再生医療を大きく発展させる。新しい人材の養成と社会体制の整備が急務である。従来の体制の踏襲に拘泥しない21世紀に活躍する新しいタイプの人材育成、教育・研究のあり方を考える。また産官学の新しい協働による緊張ある連携の強化を進める。患者のための啓蒙活動、補償及び社会保障の制度設計など社会的な基盤作りにも学会レベルで取り組み、早期の再生治療の実現とその普及のための戦略を策定して行く。
5.国際連携システムの促進
 海外の学会等を中心に連携を作り、これを通して国際的な再生医療の連携システムへと発展させ、強化して行く。世界的視野に立った教育,研究開発を推進させる。再生医療の規制の国際ハーモナイゼーションの構築を積極的に進めるための方法論を議論、その実行を進める。

 以上のような従来検討されてきた再生治療の実現策について、とくに1〜5の項目を中心に具体的にさらなる発展の活動を企画、実行しグローバル化させて行きたいと考えている。理事会・評議員会の議論に加えて、会員との積極的な議論を進め、再生医療の早期実現を目指す。

Copyright © 2005 JSRM Association. All Rights Reserved.
Japanese English